pak256-Exにおける信号システムとその応用(2)
この記事はSimutrans advent calendar 2019 18日目の記事の続編になります。
adventar.org
はじめに
Simutrans-Extended(以下、Ext)は、Simutrans(以下、Std)という交通・輸送を主眼においたフリーソフト(https://simutrans.com)の拡張版です。あえて違いを挙げるとするならば、
- 物理演算に基づいた車両の挙動
- より現実的な旅客流動
- 高度な車両運行スケジュール機能
などが挙げられます。その中でも、
- 現実的かつ高度な信号保安システム
については多くの方にとって難しく、とっつきにくいと感じる部分ではないでしょうか。StdとExtの信号における根本的な考え方の違いは、多くのStdプレイヤーにとって複雑で分かりにくいところだと思います。
九龍さん・五番星さん・そして私が中心となって開発しているパックセット Pak256-Ex においても、同様に現実的な信号配置ができるよう多種多様な信号機が実装されています。
www.pak256.simutrans.info
この記事では、そのようなStd勢の方のために「どのように信号が働くのか?」「どのように信号を扱ったらよいのか?」の2点について、Pak256-Exの信号機を例として説明し、その上で上手に使う方法を紹介します。もう知ってるよという方はお好きなところから斜め読みしてください。
閉塞と信号配置
閉塞というのは「1列車のみが入れる、信号などで区切られた区間」のことです。これも、ExtとStdでは考え方が異なります。
まず、Stdの信号の動作について復習しましょう。その閉塞の作り方によって、
- 通常の信号 -- 1区間の閉塞を作る
- プレシグナル -- 2区間の閉塞を作る
- 多閉塞信号 -- 駅を超えて閉塞区間をチェックし1区間の閉塞を作る
- 振分信号 -- 次に停車する駅の停車可能なホームを選び、そこまでの閉塞を作る
- 3現示信号 -- 次に3現示以外の信号機に当たるまで、可能な限り閉塞を作る
のように分類がされていました。信号の働きおよび信号配置についてはsouさんのアドカレ記事: (http://soukouki.hatenablog.jp/entry/2019/12/06/221452)で詳しく説明されていますので、そちらも合わせてご覧ください。
さて、ここで特徴的なのは、すべての信号機が閉塞を作る点です。一方で、Extでは閉塞を作る信号と作らない(あるいは作らなくてもよい)信号の両方が存在し、また上述の信号保安システムによっても働きが異なってきます。それでは、各信号保安システムにおける働きについてそれぞれ説明していきましょう。
スタフ閉塞式
主に図3のような単線の末端区間で用いる方式で、先に述べたように信号扱所なしで閉塞を作ることができる唯一の方式です。現実世界では、1区間に1つだけあるスタフと呼ばれる通行手形の受け渡しで単線区間の閉塞を行います。図4に示すように標識を設置すると、図5のようにスタフ棚に置かれたスタフを取って、次にスタフ棚にスタフを戻すまでの区間を予約します。戻した後(主に駅構内)は図6に示すように無閉塞運転になります。
注意:
列車がスタフ閉塞式で運行している間に信号システムを変更すると、列車がスタフを持ったまま暴走し始めます。
運転手「え、このスタフ持ってるんだしひたすら走ってても平気だよね?」
そのような事態を防ぐために、きちんとスタフを返したことを確認してから信号システムを変更しましょう。
タブレット閉塞式
主に図7のような単線区間で用いる方式です。1区間に対して複数のタブレットを用意しておき、2駅間での打ち合わせによって片方の駅からのみタブレットと呼ばれる通行手形を発行して閉塞を作ります。信号機の設置場所は図8の赤丸に示すようになります。区間に列車が差し掛かると、図9に示すように、次の遠方信号機以外の信号機に当たるまでの全区間を予約します。次の信号機が見つけられなかったときは、信号機を見つけるまで閉塞区間を1マスずつ伸ばしていきますが、これまで通ってきた道の予約は解除しません。
双信閉塞式
複線区間で用いる方式です。次の信号扱所と打ち合わせを行なって閉塞を作ります。
通常は、図10のように、遠方信号機/場内信号機/出発信号機をこの順で配置します。遠方信号機は次の場内信号機が進行か停止かを予め運転手に示すための従属信号、場内信号機は駅構内に入って良いかを示す信号、出発信号機は次の駅あるいは信号場に向かって出発して良いかを示す信号です。通過列車があっても同様の信号配置を用いることができます。
終端駅では、図11のように車両を進入させるため2腕ある場内信号を用います。出発信号機は各ホームに対して設置します。なお、各信号機は一方通行属性を持たないことに注意してください。
自動閉塞式
現代まで多くの区間でいまだに使われている閉塞方式です。実際の動作原理としては、2本のレールに設置した軌道回路を用いて、2本のレールが車軸で電気的に繋がっていれば停止信号、繋がらなくなれば進行信号となるようにするものです。実際にはさらに先の信号機と連動して注意信号や警戒信号、減速信号も示せるような信号機が多く使われています。
そのようなこともあり、Extでは5現示まで出すことができるようになっています。
- 2灯式: 停止・進行
- 3灯式: 停止・注意・進行
- 4灯式: 停止・注意・減速・進行
- 5灯式: 停止・警戒・注意・減速・進行
(がたがたで見にくくてすみません><)
2灯式信号機はstdとほとんど同じ動きをしますが、3灯式と言っているものはstdでいうところのプライオリティシグナルとは異なり、きっかり2閉塞先までしか予約しないことに注意してください。他も同様に、4灯式信号機は3閉塞先まで、5灯式信号機は4閉塞先まで見て、予約できる範囲まで予約します。
この信号機を使用する際は、ぜひとも信号間の距離について気を配って設置してみてください。例えば、最高速度における制動距離が700mの車両を走らせるとします。このとき図13のように、2マス(=100m)間隔で3灯式信号機を設置していたとします。3灯式信号機は最大で2閉塞しか予約しませんから、視認距離を合わせると最大で100mしか予約できないことになります。そうすると、制動距離より予約できた距離のほうが短いので、予約できた距離に合わせて最高速度が落とされることになります。
閉塞信号機と誘導信号機 (許容信号機)
pak256-Exでは、閉塞信号機と誘導信号機付き場内信号機と呼ばれる、機能は同一ですが表示が異なる2種類の信号機があります。この信号機の機能は、先の閉塞に既に車両がいて停止信号を現示しているけれども、そこに無閉塞運転で進行できるようにするというものです。閉塞信号機の場合は特に描画の変化はありませんが、誘導信号機付き場内信号機の場合は誘導信号機が点灯することによって誘導現示が示されます。
この機能は車両の増解結機能に先んじて追加されたものですが、現状あまり利用価値はありません。ただ閉塞信号機を用いると、車両が多く走っていて朝ラッシュの如く列車が詰まっている場合に、できるだけ列車を詰めることができるので、実質的な線路容量を増やすことができます。もっとも、現実世界ではそれをやって事故った歴史がありますので、停止信号の冒進はありません><
信号配置
信号配置については、駅に入る入口と出口については対応する場内信号機と出発信号機を設置し、それ以外の駅間を閉塞信号機で閉塞を区切ると良いと思います。場合によっては閉塞信号機で出発相当の信号機にすることもあるでしょう。また、高密度で走らせたい場所、特に速度の遅くなりがちな駅構内には図14のように4灯式ないし5灯式信号機を使って閉塞を区切るとよいでしょう。
車内信号閉塞式
車内信号閉塞式は最近では見通しの悪い地下鉄や、信号を視認できない程度の速度で走る新幹線、また物理的に軌道回路を設置できないモノレールなどで多く採用されている方式です。地上に信号機を置くのではなく、運転席に設置した車内信号に現在の最高速度を知らせます。
Extでは、図15に示すように、現在の速度に対応する制動距離の分だけ予約します。このため、5灯式信号機よりも閉塞区間を短く取ることが可能になります。信号配置については自動閉塞式と同じなので省略します。
移動閉塞式
移動閉塞式は最も新しく導入された信号システムで、現代のコンピュータ技術と無線技術によって達成されたものです。
Extでは最長で制動距離分だけ予約しますが、閉塞を作るための信号機を必要としないことに注意してください。
複線の場合の信号配置を図に示します。出発信号機としてアンテナを設置していますが、それ以降次駅までには何も信号が置かれていません。奇妙に見えますが、これだけで閉塞が達成されます。
続く…